家庭が厳しくて学生時代、1度もアルバイト等を経験していなかった私は、就職先でも他の皆と同じようにやっていけるのか、正直不安でした。学生時代に簿記の資格は取りましたが、元々経理的なセンスはないと自分でも思いますし、かといってお客様相手に笑顔で応対するというサービス業もどうかと思うのです。でも、入社して1週間で金庫番をやらされている私は、この地味で真面目な人間性を、すぐに発揮することができているようです。
金庫番と言っても、会社の社長室にある大きな金庫はとてもレトロなダイヤル式で、ダイヤルはいつも定位置なので、鍵があれば簡単に開くことができます。金庫の中には権利書類などが入っているようですが、現金や宝石などは入っていないので、一般人が開けてどうこうできる金庫でもありません。社員の中でもその金庫に注目している人はいませんし、社長も裸一貫でここまで会社を大きくしたという、自信の現れとその偉業の象徴として、社長室に大きな金庫を置いているのではないでしょうか。
私の実家にも金庫はありますが、実家の金庫はクローゼットの足元にしまえる程の小さなものです。金庫なので大きいですが、恐らく重さは50キロくらい。力持ちの引っ越し業者の人なら、休み休みですが1人で運べる程度のものです。でも会社にある金庫は、実家の金庫のだいたい2つ分くらい。高さも私の腰くらいまであり、ちょっと書類に文字を書き足す時などに、思わず机にしてしまうほどの大きさがあります。重さも大きさに伴い、100キロは超えているでしょう。私の入社1か月前に建った新社屋に移る前は、マンションのフロア1階分を借り切って会社があったそうですから、そこからここまで引っ越しで移動させたというのは、引っ越し業者も大変だったろうと思います。
他の人は注目なんかしていませんが、私にとっては大切な仕事仲間。大きさ、重さともに、金庫は私にとって、すごい存在感です。